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261005

 映画『花様年華』について話す機会があり、これまで特に気にしたこともなかったそのタイトルが突然やけにおもしろく感じられたので、今日はそれについて書き留めておこうと思う。

 言わずと知れた名作ゆえあらすじは割愛するが、ざっくりとまとめるならば切ないプラトニック・ロマンス。惹かれ合いながらも決して交わることのなかった男女の密やかなひとときをきわめて官能的に、それでいてどこにも行けない宙ぶらりんの時間として描いた、王家衛の代表作である。何度観ても、手にし得なかったものについて考え続けてはそれをなおさら求めてしまうようなたぐいの、なんとも言えない痛みを感じさせられるのだが、中国語の「花様年華」は「花のように美しい歳月、ひいては青春」を表す言葉であるからして、この男女にとって手にし得なかったものこそが美しい記憶であるのだなあ、と推察するところまでが映画の演出としてひとくくりのように感じる。話の中で、この花様年華という言葉についての素朴な疑問を交わし合ったのだが、そもそも四文字のうち二文字、それも始まりと結びを花/華が占めているのがめちゃくちゃすごくないか? もともと1940年代に香港映画『長相思』の挿入歌として使用された周璇の『花樣的年華』という同名曲から着想を得たものだそうで、いたずらに花/華を詰め込んだわけではなく、意図するニュアンスを含む単語と単語を重ねた結果この四文字になったのだろうが、まずもってひと文字が含みうる意味と機微があまりにも広い漢字の美しさに改めて恐れ入ったのだった。以上、サゲもオチも特に無し。

 さて、「花様年華」が現在から過去に向かう心の動きを感じさせるのに対して、英題である「In the Mood for Love」は今まさに進行しているところの密やかな恋の気配、その瞬間の感覚を捉えたタイトルである。こちらは1930年代にリリースされた『I'm in the mood for love』というジャズ・ソングから借用したものだという。*

 辞書の上ではin the mood forは「〜の気分(〜したい気分)」とある。このタイトルがおもしろいのは、forのあとにくるloveが包摂するあらゆる行為は明示されることがなく、それがどこか余韻を残すようにも感じられるところだと思う。これはこれで映画の内容と合致して妙味もあり、とても好きなタイトルだ(英語学習者のただのたわごとかもしれない。個人の所感ゆえどうかご容赦を。)

*同名曲のWikipediaより。出典が定かでない。

Wong Kar-wai's acclaimed 2000 romantic drama film In the Mood for Love borrows its English title from the song. Wong had planned to name the film Secrets until listening to the song late in post-production.[citation needed] I'm in the Mood for Love - Wikipedia